長期生存した原発不明頸部・縦隔リンパ節癌の1例　第74巻10号2724頁

Size: px

Start display at page:

Download "長期生存した原発不明頸部・縦隔リンパ節癌の1例　第74巻10号2724頁"

凡双阙
4 years ago
Views:

1 日臨外会誌 74(10), ,2013 症例長期生存した原発不明頸部縦隔リンパ節癌の 1 例広島市立広島市民病院呼吸器外科 1), 岡山済生会総合病院外科, 同病理 3) 岡田剛 1) 片岡正文大原利憲能勢聡一郎 3) 症例は47 歳, 男性. 右頸部腫瘤を自覚して当院を受診し, 頸胸部 CTで右頸部および右上縦隔リンパ節腫大を認めた. 頸部リンパ節生検で腺癌の転移と診断されたが, 全身精査で明らかな原発巣を認めず, 原発不明頸部縦隔リンパ節癌と診断された. 放射線化学療法でCRが得られ, 以後無治療で経過観察されていたが, 治療後 6 年 3 カ月で腫瘍マーカーの上昇と気管分岐下リンパ節腫大を認めた. 診断的治療目的で縦隔リンパ節郭清を施行したところ, 以前の頸部リンパ節の病理組織学的所見と同様の像を呈しており, 転移再発と診断した. 免疫染色では,CK7(+),CK20(-),TTF-1(+) であり, 肺腺癌を否定できないパターンであった. 術後 1 年経過し, 新たな病巣の出現は認めていない. 根治的放射線化学療法と再発病巣に対する完全切除により長期生存が得られた原発不明リンパ節癌として, 若干の文献的考察を加えて報告する. 索引用語 : 原発不明癌, 頸部縦隔リンパ節癌, 肺癌はじめに原発不明癌に対して確立された治療方針はいまだ存在せず, 特にmulti-stationのリンパ節転移を伴う症例の予後は不良である. 今回, 根治的放射線化学療法と転移巣の完全切除により長期生存が得られた原発不明癌症例を経験したので, 若干の文献的考察を加えて報告する. 症例症例 :47 歳, 男性. 主訴 : 右頸部腫瘤. 既往歴 :44 歳, 心筋梗塞に対してステント留置術を施行された. 悪性腫瘍の既往はない. 現病歴 : 右頸部腫瘤を自覚し, 当院を受診した. 血液検査所見 : 血算生化学検査に異常は認めず, CEA が43.5ng/ml と高値であったが,SCCおよび CA19-9は基準範囲内であった. 頸胸部 CT 所見 : 右下内深頸領域から鎖骨上窩, 上縦隔にかけて著明なリンパ節腫大を認めた (Fig. 1a, b). 頸部リンパ節転移の疑いで右側頸部リンパ節の摘出 2013 年 4 月 15 日受付 2013 年 7 月 1 日採用所属施設住所広島市中区基町 7-33 生検を施行した. 病理組織検査所見 : 分化度のやや低い中型多角形の異型上皮の増生を認め, やや偏在する核を有しており, 腺癌の転移と診断された (Fig.. 胸部 CT 上, 肺野および縦隔に原発巣は認めず, 気管支内視鏡検査上下部内視鏡検査腹部 CT 検査頭部 MRI 検査骨シンチグラフィを施行したが異常所見はなく, 耳鼻咽喉科領域にも原発巣は認めなかった. 以上から, 原発不明頸部縦隔リンパ節癌と診断し, 放射線化学療法を開始した. 全身化学療法として CDDP(40mg/m 2,day1,8)/DTX(40mg/m 2, day1,8) 4 週毎を 2 クール施行し, 同時に右頸部および縦隔に60Gyの放射線照射を行った. 治療後,CEA は2.1ng/mlと基準範囲内に低下し, 画像検査上もリンパ節腫脹は消失しており (Fig. 1c,d),complete response (CR) と判断した. 以後, 無治療で経過観察されていたが, 治療後 6 年 3 カ月でCEAが13.9ng/ mlと上昇し, 胸部 CT 検査にて前回の放射線照射野下端尾側の気管分岐下リンパ節に腫脹を認めた.FDG- PET 検査でも同部位にSUVmax 5.16の異常集積を認めた (Fig. 3) が, 他部位に悪性腫瘍を疑う異常集積がみられなかったため, 診断的治療目的で手術を施行した. 手術所見 : 第 6 肋間後側方を小開胸し, 食道傍 ~ 気 68

c d 示している大小不整な腺管を形成し以前の頸部リンパ節の病理組織学的所見と同様の像を呈しており中分化型腺癌の転移と診断した腫瘍細胞の免疫組織化学的検索では CK7 CK20 CD56 TTF-1 であり EGFR の遺伝子解析では変異は検出されなかった Fig.

2 10 号原発不明頸部縦隔リンパ節癌の長期生存例 2725 Fig. 1 Neck and thoracic CT show swollen supraclavicular lymph nodes ａ and mediastinal lymph nodes ｂ. 3 months after the start of treatment, the lymphadenopathies have disapa b peared with chemoradiotherapy ｃ d. c d 示している大小不整な腺管を形成し以前の頸部リンパ節の病理組織学的所見と同様の像を呈しており中分化型腺癌の転移と診断した腫瘍細胞の免疫組織化学的検索では CK7 CK20 CD56 TTF-1 であり EGFR の遺伝子解析では変異は検出されなかった Fig. 4 術後経過術後経過は良好で術後９日目に軽快退院した術後補助化学療法として S-1 80mg/day を内服中であり初回治療開始後７年５カ月経過した現在まで非担癌生存が得られている Fig. 2 Histopathological findings. Hematoxylin and eosin staining shows that the tumor is mainly composed of intermediate-grade atypical epithelial cells and destabilized nucleui ; thus, the diagnosis was metastatic lymph nodes of adenocarcinoma. 400 考察画像検査および病理組織学的検査で悪性腫瘍の転移と診断されたにも関わらず原発部位と考えられる病巣を認めない原発不明癌は全癌腫症例のを占めると報告されている1 Holmes ら2 の検討によると原発不明癌の初発部位は骨肺リンパ節肝管分岐下にかけて腫大したリンパ節を認めこれを一に多くリンパ節を初発部位とする場合は頸部リンパ塊に切除した右上下部気管傍リンパ節まで郭清した節が大半を占めると報告されている予後は一般的にが上縦隔には腫大したリンパ節を認めなかった不良とされ化学療法施行群においても生存期間中央病理組織学的所見類円形核を有する中大型多角値は11 14カ月５年生存率は10 未満と報告されて形細胞の増生を認め一部はシート状充実性の増生をいる3 4 一方で根治的切除や放射線化学療法によ 69

2726 日本臨床外科学会雑誌 74 巻 Fig. 3 75 months after the treatment, subcarinal lymphadenopathy is seen on thoracic CT, and FDG-PET scan shows high accumulation with on SUV of 5.16. Fig. 4 Immunohistochemical staining for CK7 ａ, CK20 ｂ, and TTF-1 ｃ.

400 c り長期生存が期待される比較的予後良好な疾患群が断された悪性腫瘍の原発巣として扁平上皮癌では頭存在しリンパ節癌においても単発転移症例などを頸部食道肺泌尿生殖器腺癌においては肺膵中心に長期生存例の報告が散見される臓が多いと報告されている6 1 頸部の原発不明リンパ節癌は病理組織学的には扁

3 2726 日本臨床外科学会雑誌 74 巻 Fig months after the treatment, subcarinal lymphadenopathy is seen on thoracic CT, and FDG-PET scan shows high accumulation with on SUV of Fig. 4 Immunohistochemical staining for CK7 ａ, CK20 ｂ, and TTF-1 ｃ. The tumor is strongly positive for CK-7, moderately positive for TTF-1, and completely negative for a b CK c り長期生存が期待される比較的予後良好な疾患群が断された悪性腫瘍の原発巣として扁平上皮癌では頭存在しリンパ節癌においても単発転移症例などを頸部食道肺泌尿生殖器腺癌においては肺膵中心に長期生存例の報告が散見される臓が多いと報告されている6 1 頸部の原発不明リンパ節癌は病理組織学的には扁原発不明頸部リンパ節癌の治療方針については頸平上皮癌が７割以上を占めその５年生存率は48 と部郭清術を推奨する報告が多く手術を施行しえた症の報告もあり比較的良好であるが腺癌群は予後不良例群の５年生存率は80 以上との報告もあるまたとされているまた頸部リンパ節転移を契機に診 Zuur ら7 は頸部郭清術と放射線療法を受けた群のほう 5 70

4 10 号原発不明頸部縦隔リンパ節癌の長期生存例 2727 が放射線療法単独群よりも優位に生存期間が長かったと報告している. 原発不明頸部リンパ節癌の死因としてはリンパ節再発死の頻度が圧倒的に高く, 一方で, 腺癌症例においても頸部病巣を制御することにより長期生存した報告もあることから 8), 可能な限り手術療法を主体とした集学的治療により頸部病巣の局所制御を行うことが重要であると考えられる. 一方, 縦隔のリンパ節転移が初発部位になる原発不明癌は頸部より頻度は少なく, 組織型では腺癌が半数を占める. 治療は完全切除を第一選択とする意見が多く,Didolkar ら 9) は, 治癒切除単独群が放射線化学療法群に比し予後が良好であったと報告している. 腫瘍摘出群と系統的郭清群では局所再発に一定の傾向はないとされ, 郭清の必要性については議論の余地があるが, 縦隔リンパ節癌の一部はT0 肺癌と考えられていることや系統的郭清を施行した症例で無再発生存が報告されていることから, 肺のリンパ流路を考慮した系統的縦隔郭清が必要と思われる. 原発不明癌に対する化学療法に関しては,1980 年代にdoxorubicinやプラチナ系薬剤をキードラッグとした併用化学療法により, 一部のサブグループで良好な予後が得られた 1). 特定のサブグループ以外の原発不明癌に対する奏効率は一般的に不良であったが, 近年, プラチナ系薬剤にタキサン系薬剤 irinotecan gem- citabineなどの薬剤の併用が検討され 10)~1,40~50% の奏効率が得られている報告もある. 本症例は, 初診時に頸部から上縦隔に及ぶ広範なリンパ節転移を認めており, 完全切除は不可能と判断し, 肺癌に準じた放射線化学療法を選択した. また, 再発時は病変が限局していたため根治的切除を施行しえたことで, 初回治療から 7 年 5 カ月の長期生存を得られたものと思われる.Miyoshiら 13) は, 原発不明縦隔リンパ節癌 67 例を検討し, 複数のリンパ節に病巣が存在する multi-station 例の 5 年生存率は 0 % と報告している. 本症例はmulti-station 症例でありながら長期生存が得られた貴重な症例と考えられ, 系統的な縦隔リンパ節郭清が病勢のコントロールに寄与した可能性が示唆された. 原発不明縦隔リンパ節癌のうち約 40% が肺原発であったと報告されており 9), 剖検例では肺以外に, 子宮乳腺膀胱膵臓が多いとされている. 原発巣検索において, 免疫組織学的検索の有用性が報告されており, 特に抗 cytokeratin7 抗体 (CK7) と抗 cytokeratin20 抗体 (CK20) の組み合わせにより, 転移した腺癌の原発部位の推測が可能とされている 14).CK7 は消化器以外の多数の上皮系組織およびそれらの腫瘍に陽性を示し,CK20は正常の消化管上皮, 泌尿器系上皮, Merkel 細胞およびそれらの腫瘍細胞に陽性を示す. その他,thyroid transcription factor 1 (TTF-1) は甲状腺と肺, 間脳に特異的に発現している転写因子であり, 腫瘍組織においては, 肺小細胞癌と原発性および転移性肺腺癌, 一部の未分化型大細胞癌, 甲状腺乳頭癌で陽性反応を示すとされている. 原発不明リンパ節癌の原発巣が同定困難な理由として,1 過去の手術既往により, 原発腫瘍が偶然切除された,2 原発腫瘍が非常に小さく, 画像上診断される前に放射線療法や化学療法により完全治癒した,3 原発腫瘍が自然消退した, などの要因が考えられる. また, 完全切除された原発不明リンパ節癌症例は, 原発巣が明らかでリンパ節転移を伴う症例より予後が良好であるという臨床的特徴から, 転移性ではなくリンパ節原発の鰓弓原性腫瘍と捉える説もある 15). 本症例は免疫組織化学的検索で原発巣として肺腺癌が示唆されたが, 良好な経過を考慮するとリンパ節原発癌の可能性も否定できない. 放射線化学療法が奏効した後, 長期間経過してから再発しており,key markerであるceaの推移や放射線照射野外への再発に留意して, 経過観察する必要があると思われる. 結語長期生存が得られている原発不明頸部縦隔リンパ節癌の 1 例を経験した. 原発不明癌に対する治療戦略として, 放射線化学療法と手術療法による局所制御が有効であり, 再発症例であっても手術による完全切除が予後の改善に寄与すると思われた. 文献 1)Pavlidis N, Briasoulis E, Hainsworth J, et al : Diagnostic and therapeutic management of cancer of an unknoen primary. Eur J Cancer 2003 ; 39 : Holmes FF, Fouts TL : Metastatic cancer of unknown primary site. Cancer 1970 ; 26 : )Greco FA, Burris HA, Erland JB, et al : Carcinoma of unknown primary site. Cancer 2000 ; 89 : ) 加藤誠之, 安田勝洋, 西野善一他 : 原発不明癌 22 例の検討. 癌と化療 2007;34: )Coken DD, Casterline PF, Chambers RG, et al : Metastases to lymph nodes of the head and 71

5 2728 日本臨床外科学会雑誌 74 巻 neck from an unknown primary site. Am J Surg 1977 ; 134 : ) 中村有希, 井口広義, 高山雅裕他 : 当科における原発不明頸部転移癌特に腺癌症例を中心とした臨床的考察. 日耳鼻会報 2003;106: )Zuur CL, van Velthuysen ML, Schornagel JH, et al : Diagnosis and treatment of isolated neck metastases of adenocarcinomas. Eur J Surg Oncol 2002 ; 28 : )Barrie JR, Knapper WH, Strong EW : Cervical nodal metastases of unknown origin. Am J Surg 1970 ; 120 : )Didolkar MS, Fanous N, Elias EG, et al : Metastatic carcinomas from occult primary tumors. Ann Surg 1977 ; 186 : )Biasoulis E, Kalofanos H, Pavlidis N, et al : Carboplatin plus paclitaxel in unknown primary carcinoma : a phase Ⅱ Hellenic cooperative oncology group study. J Clin Oncol 2000 ; 18 : )Culine S, Lortholary A, Fizazi K, et al : Cisplatin in combination with either gemcitabine or irinotecan in carcinomas of unknown primary site : result of a randomized phase Ⅱ study-trial for the French study group on carcinomas of unknown primary. J Clin Oncol 2003 ; 21 : Park YE, Ryoo BY, Kim HT, et al : A phase Ⅱ study of paclitaxel plus cisplatin chemotherapy in an unfavorable group of patients with cancer of unknown primary site. Jpn J Clin Oncol 2004 ; 34 : ) 三好健太郎, 奥村典仁, 古角祐司郎他 : 原発不明肺門縦隔リンパ節癌の検討. 肺癌 2007 ; 47 : )Rubin BP, Skarin AT, Pisick E, et al : Use of cytokeratin7 and 20 in determining the origin of metastatic carcinoma of unknown primary, with special emphasis on lung cancer. Eur J Cancer Prev 2001 ; 10 : )Riquet M, Badoual C, le Pimpec BF, et al : Metastatic thoracic lymph node carcinoma with unknown primary site. Ann Thorac Surg 2003 ; 75 : A CASE OF LONG-TERM SURVIVAL WITH CERVICAL MEDIASTINAL LYMPH NODE METASTASIS FROM AN UNKNOWN PRIMARY SITE Tsuyoshi OKADA 1), Masafumi KATAOKA, Toshinori OHARA and Souichiro NOSE 3) Department of Thoracic Surgery, Hiroshima City Hospital 1) Departments of Surgery and Pathology 3), Okayama Saiseikai General Hospital A 47-year-old man was referred for a right neck tumor. Neck and thoracic CT showed swollen supraclavicular lymph nodes and mediastinal lymph nodes. Excisional biopsy showed that it was a metastatic lymph node of adenocarcinoma, though no primary lesion was detected. The patient was treated with chemoradiotherapy, and a complete response was obtained. Then, 75 months later, serum CEA was elevated, and thoracic CT showed swollen subcarinal lymph nodes. The patient underwent right mediastinal lymph node dissection for diagnosis and treatment, which showed recurrence of previous lymph node metastasis from an unknown primary site. Immunohistochemical staining suggested pulmonary adenocarcinoma as the primary lesion. No new lesion has appeared one year since the operation. Key words:cancer of unknown primary site,cervical and mediastinal lymph node carcinoma, lung cancer 72

NPO 法人日本乳がん情報ネットワーク実施 2005 年非浸潤性乳管がん診断状況に関するアンケート結果 The results of a questionnaire survey on circumstances where ductal carcinoma in situ (DCIS) is di

NPO 法人日本乳がん情報ネットワーク実施 2005 年非浸潤性乳管がん診断状況に関するアンケート結果 The results of a questionnaire survey on circumstances where ductal carcinoma in situ () is diagnosed (2005) conducted by non-profit organization Japan

長期生存した原発不明頸部・縦隔リンパ節癌の1例 第74巻10号2724頁

長期生存した原発不明頸部・縦隔リンパ節癌の1例　第74巻10号2724頁