整形外科と災害外科 59 665~669,2010. 665 中原潤之輔 時吉聡介 赤 崎 幸 二 渡 邉 弘 之 相 良 孝 昭 上 原 悠 輔 福 本 巧 木 村 真 TreatmentofLumbarIntraspinalExtraduralCysticLesions JunnosukeNakahara,KojiAkasaki,Taka-akiSagara,TakumiFukumoto, AkinariTokiyoshi,HiroyukiWatanabe,YusukeUehara,andMakotoKimura 当科にて 2007 年以降に手術的治療を行った腰椎脊柱管内嚢腫性病変 5 例を検討した. 症例は男性 4 例, 女性 1 例, 手術時平均年齢 62.2 歳 (37 から 80 歳 ). 全例に強い下肢痛と筋力低下があり手術治療を施行した. 発生高位は L3/4 が 1 例, L4/5 が 4 例, 発症から手術までの期間は平均 2 ヶ月 (1 週間 ~5 ヶ月 ) であった. 最終診断は椎間関節嚢腫 4 例, 椎間板嚢腫 1 例であった. 椎間関節嚢腫の 4 例は椎弓開窓術及び嚢腫摘出術, 椎間板嚢腫の 1 例は椎間板ヘルニア及び嚢腫摘出術を施行した. 術後は全例症状改善が認められたが,1 例は 3 ヶ月後に症状再発したため, 再手術 ( 固定術 ) を施行した. 椎間関節の変性変化が強く, 関節水腫のある症例では内側椎間関節切除に加え, 必要なら固定術を併用すべきと考えられた. Weexperiencedfivecasesoflumbarintracanalextrasuralganglioncysts.Thepatientsconsisted offourmalesandafemalewithmeanageof62.2years(range:37to80years).a lpatientswere obligedtoundergooperativetherapybecauseofpainandmuscleweaknessoflowerextremity.four caseshadlumbarfacetcystandtheotheronehaddiscalcyst.a lrecoveredrapidly,butonecaseof facetcystshowedrecurrencethreemonthsfrom firstsurgery,andunderwentre-operationfor posteriorlumbarfusion. Keywords:intraspinalcyst( 脊柱管内嚢腫 ),lumbarspine( 腰椎 ),surgicaltreatment( 手術的治療 ) はじめに脊柱管内硬膜外嚢腫様病変は最近の MRI の普及により臨床上遭遇する頻度が増加している. 神経組織由来の髄膜嚢腫, くも膜嚢腫などを除外すると, その多くは椎間関節近傍組織由来の脊柱管ガングリオンないしは滑膜嚢腫である. また最近では椎間板由来とされている椎間板嚢腫の報告もある. 当科で手術的治療を行った脊柱管内嚢腫性病変 5 例を経験したので, 検討を加え報告する. 対象対象症例は当科において 2007 年以降に手術的治療を行った脊柱管内嚢腫性病変 5 例である. 手術時平均年齢は 62.2 歳 (37~80 歳 ), 性別では男性 4 例, 女 性 1 例であった. 手術脊椎高位は L3/4 が 1 例, L4/5 が 4 例で, 発症から手術までの期間は平均 2ヶ月 (1 週間 ~5ヶ月 ) であった. 結果症例の一覧を表 1に提示する. 症例 2のみが椎間板嚢腫でその他 4 例は椎間関節嚢腫であった. 全例に強い下肢痛と筋力低下を伴っており, いずれも増悪傾向にあったため手術を施行した. 椎間関節嚢腫の 4 例は椎弓間開窓術を施行して嚢腫摘出術を行った. 椎間板嚢腫の症例に対しては椎間板ヘルニア摘出術と嚢腫摘出を同時に施行した. 病理診断は cyst が3 例,ganglion が 2 例であったが, 嚢腫内壁の内皮細胞の存在はどの症例でも確認されなかった. 術後は速やかに症状改善したが, 症例 1は症状再発し再手術を行なった. 熊本市民病院整形外科 DepartmentofOrthopaedicSurgery,KumamotoCityHospital,Kumamoto,Japan 熊本市民病院リウマチ科 DepartmentofRheumatology,KumamotoCityHospital,Kumamoto,Japan 253
666 表 1 症例一覧 症例年齢性別症状高位 発症 ~ 手術までの期間 術式 病理診断 1 週間 L4/5 開窓術 cyst 1 76 男左臀部左下肢痛 L4/5 術後 3ヶ月で下肢痛再発 再発後 10 ヶ月後再手術 再開窓術 + 後側方固定術 2 37 男 右下肢痛腰痛 L4/5 5ヶ月 椎間板ヘルニア摘出術 cyst 3 57 男 右下肢痛 L4/5 5 週間 L4/5 開窓術 cyst 4 80 男 右下肢痛腰 L4/5 2ヶ月 L4/5 開窓術 ganglion 5 61 女 右下肢痛腰痛 L3/4 2ヶ月 L3/4 開窓術 ganglion し嚢腫を完全に摘出.pediclescrew を使用した後側方固定術を追加した ( 図 3). 術後は左下肢痛は消失した. 症例 2:37 歳男性. 誘因なく腰痛出現. その 2ヶ月後より右臀部痛 ~ 下肢痛が出現し当科初診. 外来で投薬し経過をみていたが徐々に右下肢筋力低下が出現. MRI にて異常を認め入院した.MRI にて L4/5 レベル右側で尾側に垂れ下がるヘルニアを認め, 同時に嚢腫様病変を認めた ( 図 4).Discography で L4/5 椎間板から嚢腫への造影剤の移行を認め, 椎間板嚢腫と診断した ( 図 5). 椎間板ヘルニア摘出術および嚢腫摘出術を施行. 術後症状は軽減した. 嚢腫は脱出した椎間板組織に隣接して存在していた. 図 1 初診時 MRI 像 T2 強調像. 嚢腫像を認める ( 嚢腫 ) 症例症例 1:76 歳男性. 誘因無く左臀部から下腿への疼痛が出現し, 徐々に左足関節の背屈力が低下して当科初診. 初診時左下垂足を認めた. 初診時の MRI にてL4/5 レベルで左 L5 神経根分岐部に嚢腫が存在し神経根を圧迫していた ( 図 1). 左 L4/5 椎間関節嚢腫による下垂足と診断し,L4/5 左開窓術 + 嚢腫摘出術施行した. 術後経過良好で, 下垂足も徐々に改善していった. しかし,3ヶ月後左下肢の疼痛痛が再発. 再度 MRI を撮影したところ, 椎間関節切除部位の近傍に嚢腫を認め, 椎間関節嚢腫再発による下肢痛と診断した ( 図 2). 安静を指示して経過観察していたが症状が持続するため, 疼痛再発の 10 ヶ月後, 再手術を施行した. 手術は左 L4/5 椎間関節内側 1/2 を切除 考察脊柱管内硬膜外嚢腫様病変のなかで神経組織由来の嚢腫や血管性嚢腫を除外すると, そのほとんどが, 脊柱管内ガングリオン様嚢腫である 2). その発生部位は椎間関節, 黄色靭帯, 椎間板組織, 後縦靱帯, 硬膜, 棘間靭帯, 前縦靭帯など多くの部位から報告されている 1)3). 椎間関節から発生する嚢腫は,synovialliningcel の有無により滑膜嚢腫とガングリオン嚢腫に区分されていたが, 厳密には両者を区分できないことが多く近年では両者をまとめて椎間関節嚢腫 (Facet cyst) と呼ばれている 4). 発生機序は, 外傷説 ( 繰り返す microtrauma), 関節包の断裂部からの滑膜逸脱説, 脊柱管近傍の組織の粘液変性説などがあるが, いまだに確定したものではない. これは組織所見での鑑別が困難であるためと考えられる. 我々の症例でも病理診断として cyst と ganglion の両者があったが, はっきりと鑑別できるものではなかった. 椎間板嚢腫については, 我々の症 254
667 図 2 再発時 MRI 像 a: 矢状断像 ( 嚢腫 ) b: 横断像 ( 嚢腫 ) 図 3 再手術後 X 線像 a: 正面像 b: 側面像 例でも椎間板内との交通があることが証明されたため, 椎間板ヘルニアとの関連が示唆された 3). 治療法として, 保存的治療と手術的治療がある. 保 存的治療として, コルセット装着, 安静, 椎間関節内ステロイド注入,CT ガイド下での嚢腫の穿刺などが行われている 6). 255
668 図 4 術前 MRI 像 a: 矢状断像 ( 嚢腫 ) b: 横断像 ( 嚢腫 ) 図 5 椎間板造影 a: 正面像. 嚢腫が造影され, 椎間板内腔内との連続性が証明された. ( 嚢腫 ) b: 側面像 ( 嚢腫 ) 手術的治療の成績は良好とされており, 諸家より推奨されている. 保存的治療の症状再発率は 25~60% とされ 4), いたずらに保存的治療を遷延すべきでない という意見が主である 7). 我々の症例のように明らかに神経学的障害を呈するものは手術を優先すべきである. 256
669 今回, 再発例に固定術を行い有効であった. 固定術の有無については臨床成績に差はないとする報告もあり 5), その適応については議論のあるところである. 7) 腰椎除圧術後に発生した報告の症例でも椎間関節の変性を認めている. 椎間関節の変性変化が強くて関節水腫があるような椎間関節の適合性不良症例に発生した嚢腫症例に対しては, 内側椎間関節切除に加え, 固定術を追加すべきと考える. まとめ手術的治療を行った腰椎脊柱管内嚢腫性病変 5 例を報告した.4 例は椎間関節嚢腫で,1 例は椎間板嚢腫であった. 手術的治療の成績は良好であったが,1 例が再発した. 再発例に対して固定術を行い有効であった. 椎間関節の変性変化が強く, 関節水腫のある症例では内側椎間関節切除に加え, 必要なら固定術を併用すべきと考えられた. 参考文献 1) Alguacil-Garcia,A.:Spinalsynovialcyst(ganglion). Am.J.Surg.Pathol.,11:732735,1987. 2) 安保裕之, 藤谷正紀 : 腰部脊柱管内ガングリオン様嚢腫. 脊椎脊髄,15:915920,2002. 3) 千葉一裕, 戸山芳昭 : 腰部脊柱管内嚢腫 椎間板嚢腫. 脊椎脊髄,15:921926,2002. 4) Hsu,K.Y.,etal.:Lumbarintraspinalsynovialand ganglioncysts(facetcysts).ten-yearexperiencein evaluationandtreatment.spine,20:8089,1995. 5) Khan,A.M.,Girardi,F.:Spinallumbarsynovial cysts.diagnosisand managementchalenge.eur. SpineJ.,15:11761182,2006. 6) 日下部隆, 他 : 腰椎椎間関節と交通する椎間関節近傍嚢腫 ( 椎間関節嚢腫 ). 整 災外,46:16011609, 2003. 7) 大島誠吾, 他 : 腰椎除圧術後に発生した椎間関節嚢腫により神経根症状を呈した 1 例. 臨整外,42:7781, 2007. 257