202 10 IIW 国際溶接技術者認証 10.1 IIW 国際溶接技術者資格認証制度の設立 10.1.1 IIW 国際溶接技術者資格認証制度設立の経緯 IIW 国際溶接技術者資格認証制度 ( 以下 IIW 資格制度 ) は国際溶接学会 (IIW) が,1992( 平成 4) 年に開始したヨーロッパ溶接連盟のスキームを基礎として, 全世界に対応する指針を制定し,1998 年からその運用を開始したものである この認証業務を行う機関は 1 国 1 機関に限られ, その設立に際しては IIW-IAB(International Authorisation Board) の規定に基づき, 審査 認定される 10.1.2 IIW 資格日本認証機構 ( 以下 J-ANB:Authorised National Body of Japan) の設立 日本溶接協会を中心に, このIIW 資格制度を日本に導入するため,1998 年に IIW スキーム準備委員会を設立し,ANB 認定取得のための準備を開始した (1)IAB への申請書提出 IAB の規則に基づき,2000 年 1 月に日本溶接協会は申請書を提出した この申請書には日本溶接協会の法的地位を証明する通商産業大臣署名の公益法人認定書が添付された 1 機関名 :J-ANB(Authorised National Body of Japan,IIW 資格日本認証機構 ) 2 申請認証資格 : International Welding Engineer(IWE) International Welding Technologist(IWT) International Welding Specialist(IWS) International Welding Practitioner(IWP) (2) 運営組織の設立と活動 2000 年 5 月に IIW 認証制度を実施運営するための具体的な組織を設立し, 活動を開始した その後もこの体制を継続している 図 10.1 に J-ANB の組織図を示す (a)j-anb 管理委員会日本溶接協会を母体とし, 溶接関係 6 団体 ( 溶接学会, 日本非破壊検査協会, ステンレス協会, 日本チタン協会, 軽金属溶接構造協会, 日本伸銅協会 ), 行政府, 研究機関および学術機関を構成メンバーとして J-ANB 管理委員会を設立し, 第 1 回会合を 5 月に開催した 以降, 原則 2 回 / 年で開催している (b) 資格認証委員会, 試験委員会,JICA 教育訓練委員会 J-ANB 管理委員会の基本方針に基づき, 資格認証委員会と試験委員会を設立した 両委員 図 10.1 J-ANB 組織図
10. IIW 国際溶接技術者認証 203 会は IIW 資格制度の運営にあたり, 中心的な役割を果たしてきた また, 後述する教育訓練機関 (ATB) として,JICA 教育訓練委員会を設立し, 対応してきた (c) 各小委員会,WG 受験条件審査小委員会,IWP 小委員会, 特例措置小委員会などを適宜設立してきた (3)ANB 認定取得および運営 (a) 総括申請書の提出 2000 年 7 月,IAB の実施要領書に基づく総括申請書を,IAB 事務局に提出した 内容は品質マニュアル, 委員会構成メンバー, 試験問題と事例集,IIW 認証制度案内文書等である (b) 初回認定審査 (Initial Audit) および IAB の承認 2000 年 9 月に IAB から審査員が来日し,IIW 品質システムの審査および JICA / ATB の実施状況の審査が,J-ANB 事務局 / 日本溶接協会と JICA / 名古屋において行われた その結果,2001 年 1 月の IAB パリ中間会議において, 正式に承認され,J-ANB が成立した (c) サーベイランスおよび更新審査 2002 年に第 1 回サーベイランス審査,2005 年に第 1 回更新審査,2007 年に第 2 回サーベイランス審査が行われ, 認定の継続が承認された 審査は J-ANB 事務局, 日本溶接技術センター, ポリテク兵庫で行われ, 大阪大学接合科学研究所に設立する ATB 計画についても説明した 10.2 IIW 認証活動 10.2.1 正規コース (Standard Route) (1)JICA 国際溶接技術者教育訓練コース (IWE の ATB) 2000 年度コースから IIW 認証制度に基づく IWE の ATB として仮承認の形でスタートした なお, 発展途上国の技術者を受け入れるというコースの特殊性から IWT や IWS の資格取得も可能とする制度とした JICA 訓練コースの中でも国際資格を取得できる唯一のコースであり, JICA から高い評価を受けている さらに 2006 年度からはコースの期間を約 2 週間延長し, 従来から要望の強かった国際溶接検査技術者 (IWIP-S) を導入した 2 つの最終試験に合格すれば, 国際溶接技術者と国際溶接検査技術者の 2 つの資格を取得できることになった 2008 年度までに JICA 国際溶接技術者教育訓練 コース修了生に対し, 国際溶接技術者として 77 名に Diploma が授与された また 21 名には国際溶接検査技術者の Diploma も授与された IIW 資格制度移行後の年度別の Diploma 発行数を表 10.1 に示す (2) ポリテク兵庫 (IWS の ATB) ポリテク兵庫は, 従来から失業者の再雇用対策の一環として政府の援助の下で溶接コースが開設され,JIS( 日本工業規格 ) に基づく技能者および溶接管理技術者の教育 訓練 認証を進めてきていた IIW の IWS の資格を取得させるため, 2002 年から体制の整備を開始し,2005 年 1 月に ATB として承認され,4 月からコースがスタートした 現在までに 48 名が IWS の資格を取得している ( 表 10.2 参照 ) 国内のポリテクでは唯一 IWSの資格を取得できる機関であり, 今後, 他のポリテ 表 10.1 JICA 国際溶接技術者正規コース年度別 Diploma 発行数 JICA 国際溶接技術者教育訓練コース IWE IWT IWS IWI-S Total 2000 年度 6 2 0 8 2001 年度 7 1 0 8 2002 年度 7 1 0 8 2003 年度 6 2 1 9 2004 年度 5 1 2 8 2005 年度 4 3 2 9 2006 年度 4 2 4 7 17 2007 年度 3 1 5 6 15 2008 年度 6 2 0 8 16 Total 48 15 14 21 98
204 クへの拡大が期待されている (3) 大阪大学接合科学研究所 (IWEのATB) 大阪大学では数年前から修士コースの大学院生を対象に, 修了時に IWE 資格を取得させるため ATB の体制整備を進めてきた 2008 年 2 月に J-ANB に対し,ATB の申請書が提出された IWE の ATB として仮承認され,4 月から 7 名の大学院生がコースに参加している 大阪大学では数年後には本コースに一般の技術者の参加も計画しており, 日本人を対象にした唯一のIWE のATBとしてその発展が期待されている 表 10.2 ポリテク兵庫年度別 IWS Diploma 発行数 2006 年度 2007 年度 2008 年度合計 IWS 22 名 14 名 12 名 48 名 10.2.2 特例措置 (Transition Arrangement) (1) 背景 IIWでは各国のIIW 認証制度立ち上げに際して, 各国独自の認証制度による認証者に対し, その内容を個別に審査し,IIW 指針に合致すると認められた場合に, 該当する IIW 資格を付与する特例措置を認めている 特例措置の移行期間は 3.5 年である J-ANB では,2000 年度から特例措置の体制を整備し,2001 年度から特例措置による認証を開始した 特別講習と試験に合格した者に対し Diploma が授与された これは正規コースに比べ時間的にもコスト的にも受験者にとって容易に IIW 資格を取得できるものであった (2) 特例措置に関する IIW-IAB との交渉経緯 表 10.3 IWE IWT IWS IWP の特例措置による資格取得の受験条件 IIW 資格 認証等級 資格条件 ( 経験年数と学歴 ) 特別講習 口述試験 (PI) IWE 経験 7 年溶接分野の技術士なし有り工科系 4 年制大学卒業経験 5 年及び WES 8103 特別級 3 日間有り工科系 4 年制大学卒業 IWT WES 8103 1 級 経験 5 年及び工科系短大, 工業高専卒業 3 日間 有り IWS WES 8103 2 級 経験 5 年及び工業高校卒業経験 8 年及び 3 日間 有り 工業高校以外の高校 IWP WES 8107 WL 経験 10 年 2 日間 有り 表 10.4 IWIP-C,S,B の特例措置による資格取得の受験条件区分 IWIP-C IWIP-S IWIP-B 非破壊試験技術者資格 体積検査 表面検査 RT UT MT PT ET JIS Z 2305 または ASNT-NDT, ACCP に基づく資格 次の 3 つの条件の全てを満足すること (3 ) 上記の資格のうち 1 つはレベル 3 であること JIS Z 2305,ASNT-SNT-TC-1A または AWS に基づく資格 JIS または ASNT は次の 2 つの条件 (1) 及び (2) を満足すること,AWS は下記 (3 ) を満足すること (3 )AWS の SCWI または CWI を有すること JIS Z 2305,ASNT-SNT-TC-1A または AWS に基づく資格 レベル 1 レベル 1 レベル 1 レベル 1 レベル 1 JIS または ASNT は次の 2 つの条件 (1) 及び (2) を満足すること,AWS は下記 (3 ) を満足すること (3 )AWS の SCWI, CWI または CAWI を有すること IIW 資格 IWE または IWT を IWE,IWT または IWS を IWE,IWT,IWS または有すること有すること IWP を有すること 溶接 検査 職務経験必要年数特別講習 5 年なし 5 年受講 (3 日間 ) 5 年受講 (3 日間 ) 口述試験 受 験 受験 受験
10. IIW 国際溶接技術者認証 205 表 10.5 国際溶接技術者および国際溶接検査技術者の特例措置による認証 国際溶接技術者 国際溶接検査技術者 合計 IWE IWT IWS IWP IWIP-C IWIP-S IWIP-B 2001 年度 383 120 118 167 788 2002 年度 114 38 68 26 246 2003 年度 112 54 68 38 272 2004 年度 108 107 56 54 13 338 2005 年度 88 74 117 31 10 11 1 332 2006 年度 25 30 1 56 計 805 393 427 316 48 41 2 2032 表 10.6 1999 年度以前の JICA 修了生の特例措置 による認証 国際溶接技術者 計 IWE IWT IWS 2002 年度 21 6 12 39 2003 年度 15 1 1 17 2004 年度 2 0 1 3 計 38 7 14 59 (a)2000 年 4 月の IIW-IAB シカゴ中間会議において溶接管理技術者と溶接作業指導者の認証者および技術士の受験条件が承認された (b)2002 2003 年に工業高校以外の高等学校卒業者に対する IWS の受験条件が承認された また同時に溶接管理技術者, 溶接作業指導者の新規認証者および技術士新規取得者に対し, 移行期間の1 年延長も承認された JICA 修了生に対しても 1999 年度以前の特例措置の適用が承認された また, 国際溶接検査技術者 (IWIP) の受験条件が承認された 同時に,IWIP の特例措置の期限を考慮し, IWE,IWT,IWS および IWP 移行期間 1 年延長が承認された (c)2004 2006 年に IWIP の受験条件の緩和, および AWS および米国非破壊検査協会 (ASNT;American Society for Nondestructive Testing) に基づく認証者の追加が承認された 表 10.3 および 10.4 に特例措置の受験条 件を示す (3) 特例措置のための特別講習 (a) IWE,IWT および IWS を対象とした 3 日 間の特別講習は, ケーススタデイと口述試験 ( インタビュー ) で, 技術士資格者に対しては, ケーススタデイは免除され, 口述試験のみが実施された (b)iwp の特別講習は 2 日間のセミナーと口述試験が実施された (c) IWIP 特別講習については非破壊検査が主 な内容となるため, 日本非破壊検査協会 (JSNDI) と J-ANB が協同で IWIP 特別委員会を設置し, 対応した (4) 特例措置による年度別認証状況表 10.5 に国際溶接技術者および国際溶接検査技術者の特例措置による認証数を示す 表 10.6 に 1999 年度以前の JICA 修了生の特例措置による認証者数を示す これらの特例措置は IIW の規定上, 移行期間が限定されており,2006 年度にすべて終了した 10.2.3 特認コース (Alternative Route) (1) 背景特例措置による認証はすでに終了したが, J-ANB は IIW の資格取得希望者に対し, その取得の機会を与える責任がある 一方, 正規コースはコストと時間がかかり, 日本の企業の賛同が得られない そこで,IWE,IWT および IWS を対象に, 時間的制約の少ない特認コースによる認証制度を確立するため,2004 年度から WG による準備活動を開始し,2008 年度から特認コースによる認証を開始した (2) 特認コースの概要特認コースは, 学歴や職歴, 経験などを書類で審査し, 必要条件を満足すれば,J-ANB が実施するプロフェッショナル インタビュー (PI) による知識の確認, プロジェクトワーク (PW), 最終筆記試験までを受験し, 合格すれば IIW 資格が取得できる制度である なお, 溶接管理技術者 WES 8103 の適格性証明書保有者は, 受験条件を満たしている場合, 相当する IIW 資格の受験が可能となり,PI に進むことができる したがって溶接管理技術者 WES 8103 の認証を取得してから応募することを勧めている 表 10.7 に特認コースの受験条件を示す 表 10.8 に 2008 年度特認コース受験者数 認証者数を示す
206 IIW 資格学歴経験年数履修証明 PI( 分 ) PW( * 1) IWE IWT IWS 工科系 4 年制大学卒業工科系短大, 工業高専卒業 工業高校卒業 工業高校以外の高校卒業 表 10.7 IWE IWT IWS の特認コースによる資格取得の受験条件 受験前の 6 年間のうち, IWE 相当の経験 4 年受験前の 6 年間のうち, IWT 相当の経験 4 年受験前の 6 年間のうち, IWS 相当の経験 3 年受験前の 6 年間のうち, IWS 相当の経験 6 年 IWE 相当の履修を証明する書類 IWT 相当の履修を証明する書類 IWS 相当の履修を証明する書類 ( * 1)PW については課題に対する予習とその報告書の提出が義務付けられている 最終筆記試験 60 3 日間有り 45 3 日間有り 30 3 日間有り 表 10.8 2008 年度特認コース受験者数 認証者数 IIW 応募資格 受験者数 IIW 認証者数 IWE 4 4 IWT 0 0 IWS 7 5 合計 11 9 特認コースについては IWE,IWT および IWS を対象にスタートした 今後 IWP および IWIP の特認コースを検討する必要がある 10.3 IIW 事業所および溶接要員認証制度 IIW では EWF のスキームをベースに 2008 年から ISO 3834 および EA-6/02 に基づく事業所および ISO 14731 に基づく溶接要員の認証 (Certification) 制度の指針を制定し, 両制度をスタートさせた これらの制度はその範囲を限定し, 認証に期限を設けて更新を前提にしている 今後, 欧州を主体に EC Directive(EC 指令 ) の適用拡大とともに, この制度が普及していくことが予想される J-ANB としてもこの動きに注目し, 会員企業の意見も参考にしながら, これらの制度普及に対応していく必要がある 参考文献 1 ) 溶接技術者教育 試験 認証制度の国際化 溶接学会 誌第 65 巻 (1996)6 号 2 ) IIW 国際溶接技術者資格制度発足について 溶接技術 2000 年 8 月号産報出版 3 ) IIW 国際溶接技術者資格制度の発足 配管技術 2001 年 2 月 4 ) IIW 溶接検査技術者の紹介 溶接技術 2003 年 3 月号産報出版 5 ) 特例措置による IIW 国際溶接検査技術者 (IWIP) をめざす人に 溶接技術 2004 年 1 月号産報出版 6 ) IIW 国際溶接技術者資格制度 特認コース 受験のご案内 溶接技術 2007 年 6 月号産報出版 7 )IIW Guideline PERSONNEL WITH RESPONSIBILITY FOR WELDING COORDINATION IAB-252-07 -Minimum Requirements for the Education, Examination and Qualification-